私は二つのブログを書いています(もうひとつはこちら)。ブログを書き始めたきっかけというのが、やはり「海外で生活する」という貴重な経験を、日本の人達に伝えたい、と思ったことでした。
ありがたいことに、読者の方からちょこちょこメッセージをいただきますが、主に子どもを持つ同世代のママさんで、家族移住や母子留学を考えている方から、オーストラリア生活に関する問い合わせ(主に学校のこと)をいただいたり、海外生活そのものへの共感のメッセージをいただくことがほとんどです。
家族で海外移住をめざす理由として、「仕事の都合でしかたなく」というケースは別として、やはり将来を考え「子どものために」という要素は大きいのかな、と思います。
日本以外の世界で生きる、という選択肢を子どもに与えたい。
世界の多様な価値観やライフスタイルに触れさせたい。
ネイティブレベルの英語力をつけさせたい。
などなど……。
私自身も、オーストラリアへ来ることを決めた時、そんな思いがありました。
だから、同じように考えて「海外生活に挑戦してみたい」と思うご家族がいたら、心から応援したいし、チャンレンジする価値はあると思います。それが短期であっても永住になったとしても、日本から出たことがないまま「世の中とはこういうものだ」と考えて生き続けるよりは、ずっとずっとやりがいのある挑戦です!
しかし一方、子連れでの海外移住であるがゆえに、「子どもが海外生活に馴染めるか」ということがまた、大きな不安要素にもなり得ます。
海外に住むという決断は、ただでさえ不安がつきまとうものですが、それを決めた大人の場合は、「頑張って困難を乗り越えること」も「行き詰まった時あきらめて帰国すること」も、ある意味自分の責任で決めることができます。しかし、子どもの場合、自分で選ぶことはできません。
誰でも、慣れた学校から転校して新しい学校に入る時。知らない土地に引っ越す時。不安になりますよね。
ましてや海外への移住の場合、それにさらに、「言葉が通じない」「文化や価値観、習慣がまるで違う」という要素が加わります。気候、住環境、食生活なども、日本とはずいぶん変わります。
子どもにとっても、「海外に住む」ということは大きな勇気を伴うことなんですね。
特に「英語が話せない」子どもが海外に住む場合、どんな困難があるでしょうか?親はどうサポートしたらよいでしょうか?
我が家の子ども達も、英語がまったくできない状態で、5年前にパースへやってきました。
そんな自分自身の体験や、周りで海外移住した友人知人らの話を元に、書いてみたいと思います。
子どもが小さい方が海外生活を始めるのはラク?
まず、一口に「子ども」といっても、幅広い年齢が含まれます。
基本的に年齢が低ければ低いほど、子どもは現地に馴染んでいきやすいでしょう。ローカルの保育所(チャイルドケア)や幼稚園、学校に入れば、ぐんぐんと英語(または現地語)を習得していくことができます。
しかし、小さい子どもであっても、最初は「言葉の壁」にストレスを感じることはあります。
我が家の息子は、3歳半の時にパースに来ましたが、最初の半年くらいは、公園で遊んでいる時に知らない子に英語で話しかけられるのが怖くて、誰もいない時しか公園で遊べない時期がありました。
小さい子の不安やストレスを、親は受け止めてあげる必要があると思います。が、英語環境への順応そのものは素早いでしょう。
むしろ、その裏返しとして、子どもの「日本語」を確立することが難しくなります。
子ども達の発達を見ていると、どのようにして言葉を覚えていくか、を観察した時、「社会性の中で学んでいく」という部分は非常に大きいと感じます。つまり、友達や先生などとの関係の中で言葉を覚えていく。コミュニケーションの手段として、言葉はとても大切なものだから、当たり前といえば当たり前です。成長段階にある子どもにとって、「言葉を覚える」ことと「社会性を育む」ことは、かなり密接な関係があるのだな、と感じます。
だから、「英語環境」の中で子どもに「日本語を学ばせる」ことはとても難しいし、多くの「海外在住日本人」にとって「子どもに日本語を教える(かどうか)」ということが、大きなテーマになるのだと思います。
小さい時から海外在住で、あるいは海外生まれでありながら、日本語の読み書きがしっかりできる子は、おそらく相当な家庭学習を行っていたはず……。
いずれ日本に戻る予定がある場合は、家庭で日本語を教える、という大変さがあります。
難しい年齢にさしかかる、10代の海外移住
一方、10歳くらいから上の年齢での海外移住は、色々と難しい問題に向き合うことになります。
小学校高学年から中学生にかけての年齢では、「友達との付き合い」は特に重要な関心事になってきます。ただの「遊ぶ相手」から、自分の立ち位置や価値観を確かめるための存在だったり、家庭とは違う「外の世界」とのコネクションになったり。
「自分って何だろう?」っていう、アイデンティティについて考え始めるようにもなります。
そんな時期に、「言葉がわからない」状態で学校生活を送るのだから、子どもにとっては相当なストレスです。
たとえば、先生の指示が、本当はすごく簡単なことなのに、英語がわからないために、言われた通りにできない。
……そうしたことは、たとえ誰にも責められなかったとしても、本人の自尊心が傷ついたり、自信をなくしてしまうこともあり得ます。
海外生活を送る上では、誰もがそんな経験をしていると思うけど……。それでも、未経験の人が想像する以上に、精神的負担が大きいものです。まして、「自分」という存在にまだ確信が持てない、成長期の子どもにとっては、ヘタをするとトラウマになる可能性だってあります。
「いざ、海外の環境に入れちゃえば、子どもは自然となじむものよ!」という人もいるかもしれないけど、私はすべての子に当てはまるとは言えないと思います。
先に息子の話を書きましたが、我が家がパースに来た時、上の娘は12歳でした。
彼女は英語が話せなかったので、ローカルの小学校に通い始めた時はずいぶん苦労しました。
私は、半年くらいは、毎日学校に送り迎えしながら、先生と顔を合わせ、今学校で学習していることを聞き、毎日家庭で娘の英語学習を行いました。学校も先生もポジティブに対応してくれたので、とても助けられましたが、私自身も「英語ができないことで、娘にみじめな思いを絶対にさせるもんか!」と思い、慣れるまでは学校と娘の橋渡しをするのに必死でした。
そんな時期も、娘は本当によく頑張って学校に通い続けたな、と、我が子ながら称賛したい気持ちです。
もう一つの問題が、「小学校(primary school)から中学校(high school)へあがる」年齢ということです。
オーストラリアでは、primary school と high school でのギャップがかなり大きいです。
学習レベルも高度になるし、学校生活も自己管理の必要性が高まります。
こちらのハイスクールは、一応「ホームクラス」というものはありますが、各教科は個人のレベルによってクラスが細分化されており、選択科目も多く、個人がばらばらのスケジュールで学校生活を過ごします。担任の先生は、朝出席を取るだけで、一人一人の生徒について管理することはしません。日本の中学校の「担任」はいないのです。
そのような中で、英語が十分にできない状態だと、学校の成績にダイレクトに影響します。うまく友達を作ってやっていければよいですが、英語でのコミュニケーションができないと、苦しむこともあるでしょう。
私の周りにも、10代で日本から移住してきた子ども達は何人かいますが、みんながんばってしっかりとやっています。が、それは「子どもだから当たり前にできること」ではなく、何より子ども本人がものすごく頑張っているのです。子どもが葛藤やストレスを抱えている時には、親はしっかりと話を聞き、対策を講じる必要があります。
私自身の経験でいえば、学校の説明会や先生との顔合わせの機会があれば、必ず出席し、特に主要教科の先生とのコミュニケーションを心がけてきました。先生と話し合い、電子辞書の持ち込みを許可してもらったこともありました。この年齢になると、親が直接できることは限られてきますが、やはり「自分はいつでも子どもの味方である」姿勢を周りに示すことは大切かな、と思います。
「日本がよかった」と言われた時
そんな我が家の娘は、来年にはハイスクールを卒業する、というまでに成長しました。英語もずいぶん上達し、将来の進路もよく考えています。
それでも、時々「日本人の子と日本語でおしゃべりしたい!」「私がオーストラリアに来たかったわけじゃないのに!」と言われることがあります。
親としては、ちょっぴりショックだったりもしますが、その気持ちは受け止めるしかないな、と感じます。
娘は、「日本に住みたいわけではない」と言うけど、やはり時々「今頃自分が過ごしていただろう、日本の子としての生活」に、あこがれのようなものを感じているのかもしれません。
ちょうど最近、私達家族と同じ時期に海外移住した人達から、同じような話を立て続けに耳にしました。
やはり子ども達は10代。そして、現地の言葉で学校に通う中で、色々あり、「私がここに来るって決めたわけじゃないのに」「本当は日本がよかった」と、子どもに反発された……という話。
今はSNSも発達して、同年代の日本の子達がどんな学校生活を送っているのか、海外にいても事細かにわかる時代です。自分失ったものを、日本の子達は持っている……という気持ちがあるのかな。
それは確かにそうだし(でも、この子達は日本の子達が手に入れられないものを持っているのだけど)、この先ずっと抱え続ける気持ちかもしれません。
また、「将来の進路」を考えるようになる年齢でもあります。
日本の中にいる場合は、とりあえず中学・高校・大学・就職活動を経て就職……という道筋がありますが、海外で育つ中で、そうした既定路線から自分は外れてしまった、という不安感を持つのかもしれません。
外れてしまったことが悪いのではなく、海外にいるからこそ、別の未来を描ければよいのですが……。そこで「英語が(ネイティブ並みに)できない」という不安感や劣等感がある場合、「現地の社会に入っていく」という将来も描きにくい。
我が子がそんな不安の中で揺れ動いている時、親はどう支えたらよいのか?ということは、かなり大きなテーマではないかと私は思っています。
親自身も、自分が育った環境とはまったく違う中で子どもを育てているのだし、現地の社会の構造、職業の選択肢などについて情報を得ていないと、子どもと話し合うことも難しくなります。
私自身も、オーストラリアの「義務教育から就業まで」の流れを把握するまで、ずいぶん時間がかかりました。大人の方こそ、まっさらな気持ちで、これからの世の中について一から学び、新たな生き方を子どもと一緒に考えていく、くらいの謙虚な気持ちが必要なんじゃないか……と思っています。
そんなわけで、私の周りでは、海外生活数年くらいを経たところで、「帰国する」と決めた家庭もあるし、「こっち(海外)に居続ける」ために一層がんばっていくと決めた家庭もあります。
どちらもそれぞれに、海外生活で色んなことを経験した中で、下した決断だと思います……。
まとめ
もしも英語圏のローカル校に入れる場合、可能であれば、子どもはあらかじめ英語ができた方が、スムーズに入っていくことができます。
たとえば、日本でインターに通っていた子は、オーストラリアに来ても素早くなじんでいけるし、コミュニティへの受け入れられ方も違うなーという感じ。
でも、我が家のように、英語がまったくできない状態で来ても、こちらの環境でがんばってやっている子達もたくさんいます。
不可能と言うことはありません!
ただ、特に年齢が上がるほど、現地の学校に通うことも、慣れるまでは大きなストレスを伴います。
子どもが毎日学校に通っているとしたら、それだけですごい頑張っていると思うので、とにかく親は毎日褒めて認めてあげてほしいです。ちなみに、そうした時期を乗り越えながら「外国人」として生きている子ども達は、みなたくましく、個性的で、しっかりしているな!と感心しますね。
また、子どもによって、「英語がどうしても苦手」という子もいるし、「その国の文化にどうしてもなじめない」という子もいます。それもそれで、子ども本人の気持ちを否定しないであげてほしいです。
海外生活でたとえ「英語環境には馴染めない。やっぱり日本が一番。」と子どもが思ったとしても、本当に海外生活を送ってみてそう思ったなら、それも収穫ではないでしょうか。
それを経て、自分の母国である「日本」の国が、より国民とって居心地のよい、長い目で安心して住める国であり続けるように、どうしていったらよいかを真剣に考えるようになったら、すばらしいことです。
とりとめのない文になりましたが、海外移住について、「英語が話せない」で海外に来た子ども達が抱えやすい問題について取り上げてみました。