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パンデミック時にオーストラリアで起きた「パニック買い」問題

海外で仕事・移住

先のブログを書いてから10日ほど経ちました。新型コロナウイルス(COVID-19)はますます世界で広がりを見せています。

私の住むオーストラリアでも、感染者の数は増えており、その増え方もどんどん急激になっています……。コロナウイルス自体もすごく心配なのですが、もう一つ、このパンデミック時にオーストラリアで社会現象となっているのが、消費者の「パニック買い(panic buy/panic-buying)」です。ある日を境に、スーパーで連日食料品・日用品に人が殺到し、大量に買っていきました。そのため、多くの人がトイレットペーパーなどの必需品を手に入れられなくなりました。この現象は、かれこれ一か月近く続いています。

あるスーパーマーケットの幹部は、「3週間で、3回分のクリスマスにあたる量の商品を補充した」と例えていました。オーストラリアの人にとって、クリスマスは一年で最も大切な祝日であり、多くの家庭が、食べ物や飲み物など、それはそれは大量に買い込むのです!日本なら、年末に、年越し~新年の食べ物を買い込むのを想像してもらえれば、と思います。その量を3週間も続けて、消費者が買いまくって行った、ということですね(汗)。とうてい通常の期間では消費しきれないほどの食料や日用品だろうに……。

止まらないこの「大量買いだめ」行動を指して、ニュースなどでは 「hoard (動詞)/hoarding (名詞)」= 「大量に買いだめて隠し持つ」、という言葉も使われています。

 

そこで、今回の記事では、英語とはちょっと関係ありませんが、私の住むオーストラリアの “panic buying” の様子を書いてみたいと思います。

なぜ消費者は「大量買いだめ」に走ったのか?

どんなものが売れた?

お店や政府が取った対策は?

 

オーストラリアのコロナウイルス対策はどう変化したか?

まず、どんなタイミングでこの「大量買い」が起こったのか、を整理してみます。

1月に、中国・武漢での新型コロナウイルス流行が報道されて以来、オーストラリアでもこの場所からウイルスが持ち込まれるのを警戒し、中国への渡航警告や、中国からのビジター入国禁止や、中国からの帰国者に対する「自己隔離」措置などを取ってきました。また、ダイヤモンドプリンセス号の件では、パース在住の男性乗客がウイルスに感染し、オーストラリア政府のチャーター機で帰国した後に死亡しており、コロナウイルスはこちらの人にとっても無関係ではありませんでした。

とはいえ、オーストラリアでますます危機感が強まったのは、2月の下旬あたりです。この頃になると、韓国・イラン・イタリアと、世界の複数の地域で感染が爆発している様子が報じられるようになりました。WHOはなかなかパンデミック宣言をしませんでしたが、オーストラリアでは、2月27日(木)にスコット・モリソン首相が「COVID-19はすぐにパンデミックになるだろう。」と言い、政府はパンデミックに備えていく、との意向をメディアで語りました。

その週末あたりから、突如、”panic buying” が起こりました。

その後、3月に入ってから、オーストラリアでも感染者数が増えていき、3月半ばから急激な増加を始めました。またその頃、(コロナウイルスが発生したアジア圏ではない)フランスやスペインなどのヨーロッパ諸国でも、感染者が急増し、「ロックダウン」する国が増えていきました。オーストラリア国内でも、コロナウイルスの感染拡大への懸念から、イベントやコンサート・スポーツ大会などのキャンセルが相次ぎました。医療界や教育現場などからは、休校措置を求める声も上がりました。

3月半ばから、オーストラリア政府はコロナウイルスの感染拡大を抑えるため、かなり抜本的な措置を取って来ました。

  • 3月15日:オーストラリアに入国する人は全員、14日間の自己隔離(自宅など)を義務付け
  • 3月16日:屋外での500人以上の集まりを禁止。学校では全校集会・スポーツ大会・校外学習などを中止
  • 3月17日:全世界への渡航禁止(Do Not Travel)
  • 3月18日:屋内で100人以上の集まりを禁止。屋内では、一人2×2mのスペースを取らなければならない。介護施設への入場制限。
  • 3月20日:オーストラリア住民以外の入国を禁止
  • 3月23日:カジノ・パブ・クラブ・ジム・映画館などの屋内施設閉鎖。レストランは持ち帰りのみOK。(stage-1 restrictions)
  • 3月25日:ビューティサロンなど、さらに多くのビジネスが閉鎖。お葬式は10人以下。ウェディングは5人以下。人と1.5m以上の距離を取らなければならない。人が集まる場所への外出はしない。(stage-2 restrictions)
  • 3月26日:学校は開いているが、学生は可能な限り自宅学習へ
  • 3月29日:海外からの帰国者は、政府が用意したホテルで14日間の自己隔離。
  • 3月30日:同居家族を除き、2人以上の集まりは禁止。必需品の買い物、通院、自宅でできない仕事などを除き、外出制限。NEW!

※日付は、発表日もしくは実施日。内容はおおまかです。ニュースをたどってまとめましたが、厳密ではありません。その他、州ごとに決められた制限もあります。

 

ほぼ毎日のように、新たな禁止・制限事項が発表されています。

このように、この2週間ほどでオーストラリアの人々の生活は劇的に変わりました。

 

オーストラリアの人は、何を買いだめに走ったか?

最初の「パニック買い」勃発は、先に書いたように、2月の最後の週末あたりです。

まず最初に人々が殺到した物として、トイレットペーパーが即座に売り切れたのは、もはや有名な話ですね(他の国でも同じ現象が見られたようですが)。それに伴い、ティッシュペーパーキッチンペーパーもなくなりました。また、食料の備蓄品としては、乾燥パスタ、米などです。ここまでは前回のブログにも書きました。また、ハンドソープ手の消毒ジェル(hand sanitiser)は、2月くらいから品薄でしたが、この段階から、店頭で見かけることはなくなりました。

その後、オーストラリア国内でも国外でも、コロナウイルスの感染状況が深刻化していきましたが、それにつれ大量買いはエスカレートしていきました。3月半ばごろからは、ペーパー類とパスタに加えて、小麦粉、砂糖、ロングライフ牛乳、冷凍食品、豚肉・鶏肉、卵などが店頭から消えるようになりました(牛肉、ラム肉はわりと供給あり)。私の近所のスーパーでは、クラッカーなどのお菓子、紅茶類、料理油なども、一時期かなり品薄になりました。

それこそ、クリスマスでも見たことがないくらい、どの棚もどの棚も、空っぽ、という光景は、壮観でした。……東日本大震災の直後を思い出しました。まさか、パースでもこんな事態になろうとは。

逆に、野菜・果物は、割と通常通りの品ぞろえでした。

 

スーパーマーケット側はどんな対策をとったか?

オーストラリアでは、Woolworth, Coles, ALDI の3つがメジャーなスーパーマーケットなのですが、これらは、客が1回の会計で買える個数を、商品ごとに設定しています。主にどの店でも制限されているアイテムとしては、

  • トイレットペーパー
  • ティッシュペーパー
  • ハンドサニタイザー
  • ペーパータオル
  • 乾燥パスタ
  • 小麦粉

あたりです。

パニック買いが始まった頃、特に週末には、開店前から人が詰めかけて、スーパーはすごいことになっていました。トイレットペーパーなど商品の取り合いで、客同士が店内でケンカしたり、欲しいものが買えなかった客が、店員に暴力をふるう、などの事件が多発しました(ニュース動画)。そのため、警察がスーパーを巡回するようになりました。また、スーパーも、入り口にセキュリティの人を配置するようになりました。

 

また、Woolwotrh は、3月17日より、弱者の人々が生活必需品を買えるように、平日の開店前の朝の1時間(7:00 ~ 8:00)を、お年寄りや障碍者の方々専用の時間帯としました。このアイデアはオーストラリアの人々から歓迎されました。今は、Coles も同じシステムを採用しています。

さらに3月26日より、Coles は、火曜日と木曜日の朝の1時間を、「医療従事者や救急・消防・警察で働く人」専用としました。これらの人々は、コロナウイルスから人々を守るために働いており、忙しくて買い物をする時間がないことを考慮して、とのこと。月、水、金は今まで通り、お年寄りや健康に不自由のある人などの専用時間となっています。

 

医薬品の「パニック買い」

「パニック買い」が起きたのは、食料品・日用品だけではありません。

薬局で、Panadol(解熱鎮痛剤)やVentolin(喘息の薬)など、一部の医薬品の「パニック買い」が起きている、として、政府は、これを一般の棚ではなく、店員のみがアクセスできるカウンターの中に置くよう指示しました。Panadol なんて、普段はスーパーでも、食品と同じように買えるものなんですが……。また、それらの医薬品は、一度に販売する量は最大一ヶ月分のみ、との制限ができました。(詳しくはこの記事を)

喘息の薬や吸入器なんて、喘息じゃない人が買い占めたら、本当に喘息の人は大変困ってしまいますね……。これは怖い。さすがに政府が規制を設けました。

 

 

「外出禁止」に備えて人々が買ったものとは?

先にも書いた通り、3月後半から、人と集まることがどんどん制限されていきました。

そんな中で、オーストラリアも「外出禁止」になる日が近い、と多くの人が考えているのでしょう……。「家で過ごすため」のさまざまなものが、バカ売れしているようです。

 

ここオーストラリアでも、コロナウイルス対策として「自宅勤務」が推奨されるようになりました。それに伴い、モニターやプリンター、コンピューターアクセサリー、事務机など、オフィス用品を買いに走る人が増えているようです(ニュース記事)。

実際に我が家でも、3月24日から、夫も自宅勤務になり、娘の取っているコースもオンライン授業になり、息子も自宅学習になりました。そのため、色々とパソコン用品が必要になり、夫が Office Work(オーストラリアのメジャーな事務用品店)に行ったところ、見事に買いたい物が何もなかったようです(汗)。

 

一方、今問題になっているのが、お酒の大量買い。政府は、「酒屋(オーストラリアでは bottle shop と言う)はクローズしない」と明言しましたが、バーやクラブ、レストランが閉鎖する(stage-1 restrictions)と発表されたあたりから、酒屋に人が殺到したようです。

「外に出る楽しみがないなら、家で飲むしかない!」って考えなのか、「酒屋も閉鎖されちゃうの!?」と勘違いしたのか……。

これをうけて、西オーストラリア州では早速、アルコール類の購買制限が設けられました。といっても、1日に買える量として「ワイン3本まで」「ビール1carton(24本)」「スピリッツ1Lまで」といったもので、さらにこれらを2つは組み合られるとのことなので、たとえば「ワイン3本+ビール一箱」はOK、という、ゆるーい制限です。……みんな、どんだけ爆買いしたんでしょうか(汗)。

コロナウイルスは避けられても、飲みすぎで肝臓を傷めたり、肥満や糖尿病で健康を損ねる人が増えそうで怖いです。

 

一方、ホームセンターでは、DIY用品ガーデニング用品に人が殺到しているとのこと(ニュース記事)。DIYでは、ペンキ、家の修繕・リノベーションの材料を買っていく人が多いようです。家から出れない期間に、普段忙しくてやりそこねていた家周りの手入れをしよう、と考える人が多いみたいですね。

また、ガーデニング用の苗や土も、バカ売れしているようです。実際に私も、そろそろ秋のハーブや花を植えようかな、なんて思い、3月のある週末に近くの Bunnings(オーストラリアのホームセンター)に行ったところ、野菜系の苗がまったくありませんでした。みんな、これから先食料品が買えなくなることを心配して、野菜を植えているのか……???

 

他にも、JB Hi-Fi(オーストラリアのオーディオ・電子機器用品店)では、ニンテンドースイッチやプレイステーション4などのゲーム機が売れまくっているとのこと(ニュース記事)。在庫切れの店が続出しているらしいです。これも、自宅にこもることになった時、退屈しなくて済むように、買いに走った人が多いようです。

 

まだあります。Kmart、Target、BigW (どれもオーストラリアのホーム&インテリアと服飾の大型店)などのスポーツ用品売り場では、エクササイズ用品や筋トレ用のウエイトが、次々に売れているとか(ニュース記事)。これも、ジムなどのスポーツ施設が閉鎖されるため、家の中でトレーニングを続けられるように、と考えた人が多いからでしょうね。

 

さらに、こんなものにも人が殺到……。

メルボルンにあるめんどりの飼育業者では、通常1週間に120羽のめんどりを売るそうですが、3月のある週には1000羽以上が売れたとのこと。これは、スーパーで卵が手に入りづらくなっていることから、めんどりを飼って卵を自家生産しよう、と考える家庭が増えたからでは、ということです(ニュース記事)。

 

まとめ

この一か月間は、オーストラリアの多くの人にとって、ストレスの多い期間だったと思います。なぜトイレットペーパーを山のように買いだめる人が続出したのかは、正直わかりません。

オーストラリアでは、コロナウイルスにかかった場合はもちろん、疑いがある場合も、完全に「陰性」だとわかるまでは、14日間の自己隔離をしなければなりません。最初は、それに備えるために「多少の備蓄を」と政府が勧めていたのは事実です。が、このパニック消費行動は、「もしロックダウンや外出禁止になったら、どうなってしまうのだろう……?」という、想像がつかないことに対する漠然とした不安が元となっていたのではないかな、と、個人的には思います。

ですが、この記事を書いている時点の印象として、一日二日前からようやく少しずつ、店頭にストックが戻り始めてきた感じがしています。といっても、まだまだ色々なものが入手困難な状況ではありますが。日常生活は、ますます制限が増えていますが、逆に「この先どうなるのか」という先行きの見えない不安は減ってきたようにも思います。実際に、人々の生活はこの一週間ほどで、かなり「外出制限」に近い形に移行しており、コロナウイルスのパンデミック時にどう生活を送ればよいのか、個人個人が理解し、受け入れ始めているのでは、と思います。また、政府も「スーパーマーケットは封鎖しない、たとえ都市がロックダウンになっても必需品は買いに行ける」と宣言し、だから「過度の買いだめをやめるように」と呼びかけたことも、人々に見通しをもたらしたでしょう。もちろん、スーパーマーケット側も、人々が家に留まることで今までとは変わった消費行動に対応できるよう、体制を整えて来ているのだと思います。

 

個人的には、普段フレンドリーで親切なパースの人々なのに、店員に暴言を吐いたり、お客同士で物を取り合ったり、ということがあちこちで起きていたようで、それが悲しかったです。そんな中で、スーパーマーケットが「弱者専用」「医療従事者専用」の時間帯を設定するという工夫は、素晴らしいと思いました。コロナウイルスのパンデミックで、感染の不安と、生活が不自由になるストレス、仕事がなくなり収入が途絶えるプレッシャーと戦っている人も大勢いると思います……。そんな中ですが、医療や流通などの場で私たちの社会を支えてくれている人たちには、感謝とリスペクトを忘れたくない、と思いました。

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