Theyは「彼ら」だけじゃない!単数形の they の意味

文法を学ぶ

2020年になりました!

昨年は、このブログをたくさんの方にお読みいただき、ありがとうございました。今年もどうぞよろしく願いします。

 

ところで、日本では年末になると、一年を振り返る企画がよくありますよね。たとえば、その年に話題となった「流行語」を選ぶ、ユーキャンの「新語・流行語大賞」があります(ちなみに2019年の大賞は『ONE TEAM』でした)。また、日本漢字能力検定協会は、毎年「今年の漢字」として、その年の世相を表す漢字一文字を公募、発表しています(昨年は『令』でした)。

英語圏でもやはり、そうした「振り返り」があるんですね。

アメリカの老舗的な英語辞典の一つ、Merriam-Webster は、毎年年末に、 “The word of the year(今年の単語) を発表しています。昨年12月にも、The 2019 word of the year が発表されました。

そして、昨年選ばれた言葉は……

they

でした!

(詳しくは、Merriam-Websterのこの記事 を!)

 

え、they???

日本の読者のみなさん、they なんて、中学の時に習いましたよね?さんざん覚えさせられましたよね?

They の用法:

He is an employee of XYZ.  (彼はXYZ会社の従業員だ = 一人)

They are employees of XYZ.(彼らはXYZ会社の従業員だ = 複数)

 

そう、多くの方は、they は、he(彼)や she(彼女)に当たる部分が複数の場合に使う、「彼ら/彼女たち」という意味の代名詞だと、知っているでしょう。あるいは、it(それ)の複数形、「それら」という意味でも使います。

これは英語文法の基本中の基本!まず、しっかり覚えておくとして……。

なのに、なぜ、they が「2019年の言葉」なの????

今回は、theyの新しい意味と使い方、について書こうと思います。

 

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一人の人を表す、「単数形」の they?

今回 Merriam-Websterthey が取り上げられた理由は、「単数形の they に新しい意味が加わった 」からです。

え、they は複数形でしょ?ついさっきもそう書いてあったけど……。それは正解です。

ただ、昨年、Merriam-Webster 辞典に、「they の新しい意味」が追加されました。ジェンダーが non-binary の人に対する代名詞として、”He or she” の代わりに、they を使う、ということです。この場合、複数だから they、ではなく、一人の人を表すけれど、they を使うのです。

 

ところで、ジェンダーが non-binary とは?

多くの人は、「性別」は「男」か「女」の二択、だと考えてきました。というか、今まで私達が生きてきた社会は、そういう考えをベースに構築されてきた、といえるでしょう。英語の binary(バイナリー) という言葉は、「0/1」「Yes/No」「Good/Bad」など、二択の状態を表します。Gender binary と言った場合、「性別は、男か女かの二択しかない(=すべての人は、男または女である)」という考え方を表しています。

ですが、近年は、必ずしも性別は「男/女」の二択とは限らない、という認識が広まってきています。肉体的、生物学的な性別(英語では sex という)に関しても、必ずしも「♂と♀」にきっぱり分かれるとは限らない、ということが明らかになってきています。また、「自分が生まれ持った性別の性役割(男が男らしくいる、女が女らしくいること)に違和感や苦痛を感じる」というような、社会的に受け入れられている「男女」という性別(gender:ジェンダー)にあてはまらない人もいます。

これまでの gender binary な捉え方にあてはまらない人にも、それぞれに様々なタイプの人がいるのですが、そうしたあり方を総称して、つまり『「男/女」のどちらかにあてはまる人』以外の人々を表す時に、non-binary gender という言葉が使われるとのことです。

出典)

What Does It Mean to Be Non-Binary or Have Non-Binary Gender?|Verywell Mind

単数形の they と性別の多様性

英語では、三人称単数形の代名詞を使う場合、heshe しかありません。なので、たとえば、

 

“I talked to my daughter’s teacher about it.”

“So what did ___ say?”

「それについて、娘の先生と話したんだよ。」

「それで、先生はなんて言ったの?」

なんて会話をしたい場合、先生の性別をあらかじめ尋ねるか、もしくは “What did he or she say?” のように聞くことになります。

ちなみに日本語では、ここで「彼は/彼女は」ということは一般的ではなく、↑のような言い方がナチュラルだと思います。日本語に慣れている私達には、この “he or she” 問題はちょっとめんどくさいな、と感じることも多いですよね。

 

実は英語でも、必ずしも性別を特定できない文脈の中で、複数形でなく、”he or she” の代わりに they が使われることは、古くから用例としてはあったようです。たとえば、

The person who answered the phone said they didn’t know where she was.

from “they” Merriam-Webster

のような例が、辞書に載っています。

加えて近年では、先に述べたような「性別の多様性」が認識されてきていることから、性別が non-binaryの人を表す場合に、“he or she” の代わりに they を使う、という用法が、過去数年の間に広まってきました。

その流れの中で、昨年9月、Merriam-Webster辞典は、「non-binary gender の人について使う三人称単数の代名詞」という they の用法を追加し、さらに昨年の the word of the year に、その they が選ばれた、ということです。

 

昨年は、イギリスのミュージシャン、サム・スミス(Sam Smith)が non-binary であることを公表し、さらに「私を表す3人称単数形の代名詞は、they/them です」と自らのツイッターアカウントで明言したことが話題になりました。また、モデルのオスロ・グレイス(Oslo Grace)は、昨年のVOGUEのインタビュー記事で、自分が non-binary であることを語り、その際「誰かがあなたのことを話す時、代名詞は何を使ってほしい?」という質問に対し、“They/them” と答えています。

Merriam-Webster によると、昨年はこのような、「ジェンダーの多様性」に関する出来事がたびたび注目を集め、それによりネット上での「単数形の they」の検索数が、前年より4倍以上も増加したとのこと。さらに近年の動向や研究も踏まえて、辞書に追加となったようです。

考えてみたら、non-binary の人にとっては、「he か she か?」、と二択にされること自体が、苦痛だったり居心地悪かったりするかもしれませんよね。また、たとえば見た目や服装やしぐさなどで「あの人は男、あの人は女」と断定する(される)ことも、そぐわないケースがあるんじゃないか、と思います。

そんな時に、he でも she でもなく、they を使う。

この用法が、英語の使い方として老舗の英語辞典に掲載されたことは、社会的に「ジェンダーの多様性」が受け入れられていく方向に向かっている、その表れだと思います。

 

正しい「単数形の they」の使い方は?

ここで気になるのが、「単数形の they」の文法的な使い方……。They の後に来る動詞は、三人称単数形?それとも、複数形?

たとえば be 動詞なら、三人称で単数だから、“They is …”? それとも、文法的には複数形と同じく、“They are …”?

いくつかの例文を見てみると、文法的には “They are …” を使うようです。たとえば、英文の文法チェックを行うフリーツール Grammarly のブログ には、

They are a talented artist.

という例文が載っていました。ちなみに、they が複数の人を指しているならば、“They are talented artists.” となるので、これは一人の人を指しています。ちょっと違和感を感じる人もいるかもしれませんが、このような使い方になるようです。

 

また、he/she に当たる「再帰代名詞」として、himself/herself があります。複数形を表す they の場合は、themselves になります。

ですが、non-binary gender の人について they を使う場合は、themself が使われるようです。

文法的な例としては、

「(その人は)楽しんだ・楽しい時を過ごした。」

He/She enjoyed himself/herself. (彼または彼女)

They enjoyed themselves. (複数形の they)

They enjoyed themself. (non-binary gender の they)

 

となります。

ただ、文(フォーマルなライティング)においては、themself はあまり使用例がなく、non-binary gender の人を述べる時に使われる以外は、今のところ一般的ではなさそう……。詳しく知りたい方は、Merriam-Webster の “Themself” の記事を読んでみてください。

 

まとめ

ところで、日本の芸能界で昨年、この they と連動するような動きをしたのは、氷川きよしさんではないでしょうか。

「男と女のステレオタイプがっちり」な『演歌』畑で20年、「男性歌手」として活躍してきた氷川きよしさんですが、昨年は、ステージパフォーマンスでも、インスタでも、「美しい」姿をたびたび披露し、話題になっていました。

私自身は、ネットで時々記事を読むくらいで、熱心なファン、というわけではないので、あまり詳しくは知らなかったのですが、昨年末にNHK紅白歌合戦で氷川きよしさんのパフォーマンスを見た時は、やはり素直に驚きました。しかし、過去の氷川きよしさんは、「歌がうまく性格がよさそうな男性歌手」という印象でしたが、今はアーティスト、表現者、だと感じました。「男/女」の二択という、狭いカテゴリーを超越した美しさ、「自分と向き合う」ことを決意した強さを感じました。昨年のインタビューでは、「自分らしく」「ありのまま」といったキーワードをたびたび強調していたそうですが、それはきっと、「男/女の二択で自分をカテゴライズしたくない、されたくない」という意思表示だったのかな、と思いました。

氷川きよしさんの紅白のパフォーマンスは、出演者の中でも視聴者からの評判はたいへんよかったようです。

「男らしい男」「女らしい女」以外は、キワモノ扱いされる風潮がまだまだありますが、そのような古いイメージは、これからどんどん塗り替えられていくのでしょう。

私自身は「女性」ですが、女性だから……すべき、女性だから……なはず、という考え方は、窮屈だし、自分を見失わせてしまう、と感じることは多々あります。自分は自分らしくやりたいだけなのに……と。「性の多様性」という言葉は幅が広い言葉ですが、最終的には、すべての人が「性別で生き方を決められることなく、自分らしく生きられる」世の中になったらいいな、と思います。

2019年は、そういう意味で前進した年だったのかな、と、「they の新しい意味」をきっかけに考えました。今年も英語を通して、新しい価値観を学んでいきたいです。

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