「日本の学校の英語教育では、話せるようにならない」「日本の英語教育は間違っている」とよく言われます。実際に学校で英語をたくさん勉強して、大人になった、多くの人がそう感じていると思います(残念なことに)。
私自身、大卒。中学高校と、学校の英語の成績は悪くはなかったです。受験ではもちろん、英語もたくさん勉強しました。大学の卒論を書くために、英語の文献もたくさん読みました。
それでも……。6年半前に、ここ西オーストラリア州パースに来た時は、本当に英語でのコミュニケーションができなくて、我ながら愕然としました。特に、会話には苦労しました。それからは、ここで暮らす日常生活すべてが、英語の勉強となりました。
その過程を経て、自分自身が学んできたことを、このブログに書いています。
さて、日本の学校で英語を勉強しても「英語が話せるようにならない」、その話が出るたびに引き合いにだされるのが、“How are you?” “I’m fine.” の話ではないでしょうか?
日本の学校で英語教育が始まると、最初の頃に教科書に出てくるのが、
“How are you?”
“I’m fine, thank you. And you?”
という「挨拶のしかた」です。
が、それに対し、アメリカ在住の日本人や海外在住経験者の人達が、よくSNSで
「アメリカでは “How are you?” と挨拶する人はいない」
「海外では “I’m fine.” なんて返す人はいない」
と書いているのを目にします。そのことから、「日本の学校で教える英語は、実際に海外の人とコミュニケーションする場面では役に立たない」という意見につなげる人が多いようです。
しかし、それは本当でしょうか?
“How are you?” “I’m fine.” を教えることの、何が問題なのでしょうか?
英語を学び始めたばかりの子ども達に、英語の挨拶をどう教えたらよいのでしょうか?
ということを、オーストラリア在住6年の私なりの考えを書いてみたいと思います。
オーストラリアでは “How are you” と言う?
まず、英語の挨拶と日本語の挨拶、どこが違うのかというと……。日本語でも、誰かと顔を合わせたら「こんにちは!」とか「ちーっす」とか、何か言うと思います。が、英語の場合、顔見知りだけでなく、「店員さんとお客さん」とか、初対面で一度きりしか会わない相手でも、このような挨拶は行われます。
ところで私自身は、顔見知りやお店の人から挨拶される時、シンプルに
“Hi, how are you?”
と言われることが一番多いです!
私の場合、若い人の友達同士的な関係の人はいないので(笑)、隣人や子どもの学校関係、親しい親同士、などになりますが、たいがい “How are you?” です。またバリエーションとして、
“How’s it going?”
“How’re you doing?”
などなど、色々あります。男性同士なら、
“Hey mate, How’s it going?”
“G’day mate, how ya doin’?”
など、mate で呼びかける(オージーイングリッシュの特徴)ことも多いようですが。
アメリカなど、別の国では、また違うかもしれませんが、少なくともオーストラリアでは、“How are you?” は非常によく使われています。
ただ、発音は「はう、あー、ゆー」というよりは、「はわゆー」のように聞こえます。
“I’m fine.” と答えるのはアリ?
で、“How are you?” と聞かれたら、なんと答えたらよいでしょうか?
私も最初の頃は、とりあえず学校で習ったことを思い出し、“I’m fine.” と答えていましたが、他の人が挨拶しているのを聞いているうちに、こう答えている人はいないな~と気づきました(笑)。
自分の経験では、やはり “Good.” とか、“I’m good.” とかが多かったかなぁ。なので、私自身もそんな感じで答えています。カジュアルな場面なら “Good!”、ちょっと丁寧に言うなら “I’m good, thank you.” という感じ。他の日本人の方が書いている英語に関する記事などを読んでも、“Good.” が定番という感じでしょうか。
ただ、これも決まりではなくて、人によって本当に色んな言い方をします。こちらでは、“Not too bad.” とか言う人も多いみたいです。
では、日本の学校ではなぜ、“I’m fine.” と教えているんでしょうか?
それは私にもわかりません(すみません)が、以前、私の英語の先生がこんなようなことを言っていました(正確な記憶ではありませんが)。
「日本語でも、たとえば『ごきげんいかが』みたいな挨拶は、日常生活ではほとんど使われない。でも、日本の人はそれが「正しい挨拶」だと知っている。まあちょっと古めかしいけど。英語でも、“I’m fine” は同じような感じかな。「正しい英語」を教えるという意味で、教科書に載せているんじゃないかなぁ。」
そういえば、前にインドから来たばかりの小学生と話した時、私が “How are you?” と聞いたら、“I’m fine.” と答えてくれました。なので、こう習っているのは日本だけではないのかも?
もしかして、そもそも昔に、イギリスやアメリカが「外国人が英語を学ぶためのテキスト」的なものを作ったとして(そういうものがあったとしたら)、そこには “How are you?” “I’m fine.” が模範的な例として書かれていたのかも……?最初の日本の英語教育はそこから引用したとして、その後アップデートされないまま、今に至るとか……?
あくまで私の想像ですが。
「英語の挨拶」問題で大切なことは?
確かに日本の英語教育は、問題点が たーくさん あると思います!
ただ、このような「英語ネイティブは “How are you?” “I’m fine.” と言う・言わない」は、「英語教育」という意味では、正直あまり大きな問題ではないのかな、と私自身は思います。
というのは、私自身が思うのは、日本の学校の英語教育というのは、「英語ネイティブになるため」ではない、と思うから。(というか、なれないし)
日本人の子ども達が日本で学ぶ英語教育、というのは、世界の中で他の国の人とコミュニケーションするための、「世界の共通言語としての英語」だと思うんです。だから日本で教える英語は、「ネイティブ英語」を基準とするより、「どの国でもおおよそ通用するような、標準的な英語」が理にかなっていると思います。そういう意味で、とりあえずどこに行っても通用する挨拶として、“How are you?” “I’m fine. (“I’m good.” くらいでもいいんじゃないか、と個人的には思うけど)” を教えるのは、悪くないと思います。英語教育の中では、正しい文法を教えることも大切なので、そういう側面でも理解はできます。
確かに、いざ海外に行って、
「え、誰も “I’m fine” とか言わないじゃん!」
ってショックを受ける、その気持ちはよーくわかります(笑)。でも、挨拶って、国や地域によっても違うと思うし、年齢層によっても、または人間関係や、グループの属性(同年代のお友達か、仕事関係か、社交界のお付き合いか、など)によっても、さまざまなバリエーションがあると思います。それは、その状況に身を置いてみないとわからないものではないでしょうか?
挨拶に限らず、異文化に触れた時には、少なからず驚くことや、「自分の予備知識とは違った!」ということが、必ずあります。だからこそ、実際に外に出て、触れてみることに、価値があるのです。海外に行って、英語ネイティブの人が “How are you?” “I’m fine.” と言わないことを知ったなら、彼らがどう言っているのかを聞いて、その現地の言い方を覚え直せばいいですよね。それは、それほど難しいことではないと思います。
ただ、日本の学校で英語を教える際に、一つ私が望むことは、“How are you?” “I’m fine.” でなければバツ、と叩き込まないでほしい!ということ。
教科書の例は、あくまでテンプレートであって、実際にはいろーんな言い方をする、ということを、まず最初に子ども達に教えてあげてほしいです。タイミングや、相手との関係性によって、尋ね方も答え方もさまざまだということを知ってほしいです。だって、挨拶ってそういうものですよね?
以下のYouTubeは、アメリカ英語ですが、“How are you?” を使って英語のそのような側面をうまく切り出しており、とてもよい教材だと思いました。こういうのを例として見ながら、挨拶のしかたを場面として学ぶのは、よい方法だと思います。
YouTubeリンク:アメリカ人は「How are you?」にどう答えるか実験してみた #19|Hapa 英会話
まとめ
ところで、日本で「ネイティブの英語は~」という話になると、大方はアメリカ英語を指しているんですよね。ですが、オーストラリアもそうですが、イギリスやニュージーランド、インドやアジア諸国の多くの国は、イギリス英語を採用しています。また、オーストラリア英語のように、国によっても独自の英語があり、地域によっても微妙に違いがあるみたいです。
私が住むパースは、海外生まれ(オーストラリア以外の国で生まれた)の人が、人口の4割ほどを占めます(2019年:World Population Review)。また、「家庭で英語以外の言語を話す人」は、およそ39%(2016年:City of Perth |.idcommunity)。つまり、英語ネイティブではない人が社会の中で英語を使っているケースが、非常に多いのです。その中で、「英語ネイティブ」の言い方を学ぶことも、もちろんとても有意義ですが、そもそも「英語ネイティブの英語」とは何だろう?ということも、考えずにはいられません。
このような多様性に富んだ社会では、「英語を使って、英語ネイティブとも、そうじゃない人とも、きちんとコミュニケーションを取れる」能力がますます重要になるのでは、と私自身は感じています。
第二外国語として英語を学ぶ私たち日本人は、何をお手本として、何を最終目標として英語を学ぶのか、も同時に考えていきたいですよね。